観音沢から霧ヶ峰へ
山梨の野村です。
霧ヶ峰。いつもなら車でひょっと行く、まさに観光地キリガミネ。
そんなところに素晴らしい場所が果たして残っているのだろうか。
ちょっとどきどきわくわくしながらの今回の研修参加となりました。
今回のコースは少なくとも鎌倉時代から人々が通った道です。
しかし、現在はといえば山と高原地図(2012年版)にはコースとしても
記載されていない状況で荒れているのかなあとも思いつつ、登山口に到着。
登山口となる大平の駐車場には豊富な湧き水があるからか、意外にいれかわり立ち代わり駐車場に車が停まるが、観音沢コースを登ろうとする人は我々の他にはいませんでした。
出発してまずは沢沿いの未舗装道を進むと、他所ではあまり見かけないというミツデカエデが豊富で、大きいものから実生まで様々な状態を観察できます。木橋を渡ってそこから一段登ると牧草地の跡地に出て、また林に入ったすぐ、右手奥の森の中が明るくて目を惹かれた。あの色は…早速寄り道してみると見事なクリンソウの群落です。

人の生活の痕跡がそこかしこに残る道をたどりつつ、その先しばらくの所が最初の休憩地。
目を凝らすと足元にはフタバカンアオイが咲いています。このカンアオイ。地味花だけどなにげに興味深い。花のカタチはキノコのようなまさに「半球」で4つの線が外側に見えるが、これは筋ではなく切れ目。よく見ると花びらが球の半分の所で折り返し被さって花を形作っていて、2重にしてあることで丈夫なのです。ここになにがしか生きるための工夫が隠されているんだろうな。この仲間はギフチョウの食草でもあるので早春に訪れてもいいかもしれません。

また、ふと気づくと群落が密集しているのではなく、線状に伸びているのがいかにも不思議だったのですが上野ガイドの解説で、カンアオイはスミレのようにアリに種を運ばせるタイプの植物と知り、なるほどアリの道がカンアオイの道になっていたということが分かり、さらに楽しめました。こんな?が!になるようなガイディングができるようになりたいです。
そこから先しばらくは道がカワカワしてきて少しだけ歩きにくい区間があるが基本は平坦な歩きやすい道が続きます。それがなぜかといえば、この先の林に答えがあります。このあたりは御柱祭~7年に一度諏訪神社で行われる祭りのためにモミの大木が伐り出されてきた場所なのです。

現在のモミの林は見た所巨木が数えるほどしか無いので、この先の祭りがどう存続していくのか少し不安に思いましたが、逆の視点で見れば、仮に江戸時代から考えても500年間に7年毎に8本伐り出しているので、するとその頃には500本近い巨木の森がえんえんと広がっていたことになる。そんな風景を想像すると楽しい、というかうらやましいですね。
一旦林道に出て休憩の後、いよいよ始まる沢沿いの道はそこかしこにオシダが花のように葉を開き、沢ぐるみやトチの大木が次々現れる、しっとりとした気持ちのよい道でした。途中リスやアナグマに出会えたのもこの落ち着いた環境の中だったからでしょう。もちろん、我々以外すれ違う人もいない静かな場所だったからでもあります。
コース中間にある屏風岩では岸壁の途中に千手観音を遠望することができます。その先の沢の分岐点にある木橋は荒廃していたのですが、そこをはじめ屏風岩付近で三回ほど沢を渡り返すので、増水時には苦労させられると思います。
さて、沢筋に水が無くなる頃にはまわりの林がすっかりミズナラに変わってくとようやくバイクの音等が遠くから聞こえはじめて気になりますが、登山道は途中舗装道路をまたぐこと無く、突然ぽっかりと空の広がる高原風景の中に飛び出します。

観音沢コースの終点、旧御射山神社に到着です。
ここはまわりを囲まれた窪地状になったところ、鎌倉時代には一種のスタジアムとして使われていたのだそうで、その証拠に観客のいた桟敷の痕跡や、地面にはカワラケがいまでも散乱しています。先ほどまで歩いた観音沢を辿り、参拝にやってきた人たち、馬とともに登ってきた競技の人たち。賑やかだったであろう道も、今ではひっそりと忘れられていました。
日が傾いて、初めて訪れた上野ガイドおすすめの宿ジャベル。昔の山の歌の中に出てくる山小屋がそのまま目の前に現れたかのような、落ち着いた佇まいがなんだか懐かしい気持ちにさせられます。しかも(幸運にも)我々だけの貸切!ご主人とお話ししたりしながら静かな夜は更けてゆきます。
翌日はまずは蝶々深山に向かいました。ミズナラの下をしばらく登ればすぐにのびやかな草原!見上げる空の面積の広さに、やはり高原の最大の魅力があると思います。ここは人の手によって草原が維持されてきたのですが、草原の中にぽつんと一本だけ立つ木を見つけるたびに、「その木」を残した「その理由」をあれこれ想像してしまいます。そんな想像を巡らすことができるのも足元に神経を尖らせないで歩ける高原の魅力の一つかもしれません。
そして、貸切の頂上へ。近くの八ケ岳から遠くは白馬まで、360度ぐるっと遠望ができて素晴らしい。さらに「ジャベルの丘」に移動。この丘までの小径がなんともいえずいい感じ。ここは完全に貸切です。振り返れば先ほどまでの静かな山頂は、団体さんであふれていました。

そのまま直進してジャベルへ向かって降りるのですが、この丘からの道は個人的な思い出の道〜2年ほど前に家族でここにやってきたときに、予定コースから外れて歩いてみた「小さな冒険」コース〜だったので、その記憶を懐かしみながら楽しむことができたのも良かったです。記憶に残る山、それをガイドとして提供できるようになりたいですね。
そのあと、昨夜の話題だった尾崎喜八の「忘れられた文学碑」を訪ねたあと、これも今ではほぼ忘れられた登山コースを辿って屏風岩の下、沢の分岐点まで降りていきました。このコースは途中の標識看板は新しく、道もほぼ明瞭なのに、分岐点到達直前になると道があやふやになるというのが不思議だった。(登りに使うと最初が分かりにくいです)
それからは昨日の記憶を辿るようにおなじ道を下山していきましたが、光の加減、歩く方向で随分森の印象は変わります。じっくりミクロの視点で色々なものを見せたいときには、登りコースとして設定すべきだなと再認識しました。そうそう、御柱の森をしばらく降りた辺り、道の山側にフェンスがある区間では、路上に黒曜石が落ちていて、これもここならではのお楽しみだと思います。
最後のおまけはクリンソウ。行きとは別の場所にあの朱色を見つけて寄り道した所、昔の水場だったような沢地にたくさん咲き誇っていました。やっぱり立ち止まったり、寄り道したりする道歩きは楽しいなあ。
このコースは、カエデ(なんと合計16種類)を始め落葉樹が多いので、秋などもきっと非常に魅力的だろうし、歴史と自然の魅力に加えて風景に変化が多いこと、たどり着いた宿も味がある、などなど歩く旅の魅力がつまった宝箱のようなコースだと思います。このようなコースを自分でも発掘、創造したいなあと思いました。そしてそのためには、まずはガイドブックではなく自分の足で確かめることが大事だということを今回の研修で学んだような気がします。
そして今回改めて自然の知識を磨く大切さを感じました。歩く道で出会う新しい植物に対して上野ガイドの解説が入る入る。後ろを歩くなかで、「そのほかの植物」はないかなと探しながら歩いていましたが、ほぼ無かったのに驚きました。自分も半分ほどは名前が分かったものの特に木の方面はまだまだ。まずはカエデの識別ができるようになりたいな、と思いました。
自然ガイド 野村でした。
霧ヶ峰。いつもなら車でひょっと行く、まさに観光地キリガミネ。
そんなところに素晴らしい場所が果たして残っているのだろうか。
ちょっとどきどきわくわくしながらの今回の研修参加となりました。
今回のコースは少なくとも鎌倉時代から人々が通った道です。
しかし、現在はといえば山と高原地図(2012年版)にはコースとしても
記載されていない状況で荒れているのかなあとも思いつつ、登山口に到着。
登山口となる大平の駐車場には豊富な湧き水があるからか、意外にいれかわり立ち代わり駐車場に車が停まるが、観音沢コースを登ろうとする人は我々の他にはいませんでした。
出発してまずは沢沿いの未舗装道を進むと、他所ではあまり見かけないというミツデカエデが豊富で、大きいものから実生まで様々な状態を観察できます。木橋を渡ってそこから一段登ると牧草地の跡地に出て、また林に入ったすぐ、右手奥の森の中が明るくて目を惹かれた。あの色は…早速寄り道してみると見事なクリンソウの群落です。

人の生活の痕跡がそこかしこに残る道をたどりつつ、その先しばらくの所が最初の休憩地。
目を凝らすと足元にはフタバカンアオイが咲いています。このカンアオイ。地味花だけどなにげに興味深い。花のカタチはキノコのようなまさに「半球」で4つの線が外側に見えるが、これは筋ではなく切れ目。よく見ると花びらが球の半分の所で折り返し被さって花を形作っていて、2重にしてあることで丈夫なのです。ここになにがしか生きるための工夫が隠されているんだろうな。この仲間はギフチョウの食草でもあるので早春に訪れてもいいかもしれません。

また、ふと気づくと群落が密集しているのではなく、線状に伸びているのがいかにも不思議だったのですが上野ガイドの解説で、カンアオイはスミレのようにアリに種を運ばせるタイプの植物と知り、なるほどアリの道がカンアオイの道になっていたということが分かり、さらに楽しめました。こんな?が!になるようなガイディングができるようになりたいです。
そこから先しばらくは道がカワカワしてきて少しだけ歩きにくい区間があるが基本は平坦な歩きやすい道が続きます。それがなぜかといえば、この先の林に答えがあります。このあたりは御柱祭~7年に一度諏訪神社で行われる祭りのためにモミの大木が伐り出されてきた場所なのです。

現在のモミの林は見た所巨木が数えるほどしか無いので、この先の祭りがどう存続していくのか少し不安に思いましたが、逆の視点で見れば、仮に江戸時代から考えても500年間に7年毎に8本伐り出しているので、するとその頃には500本近い巨木の森がえんえんと広がっていたことになる。そんな風景を想像すると楽しい、というかうらやましいですね。
一旦林道に出て休憩の後、いよいよ始まる沢沿いの道はそこかしこにオシダが花のように葉を開き、沢ぐるみやトチの大木が次々現れる、しっとりとした気持ちのよい道でした。途中リスやアナグマに出会えたのもこの落ち着いた環境の中だったからでしょう。もちろん、我々以外すれ違う人もいない静かな場所だったからでもあります。
コース中間にある屏風岩では岸壁の途中に千手観音を遠望することができます。その先の沢の分岐点にある木橋は荒廃していたのですが、そこをはじめ屏風岩付近で三回ほど沢を渡り返すので、増水時には苦労させられると思います。
さて、沢筋に水が無くなる頃にはまわりの林がすっかりミズナラに変わってくとようやくバイクの音等が遠くから聞こえはじめて気になりますが、登山道は途中舗装道路をまたぐこと無く、突然ぽっかりと空の広がる高原風景の中に飛び出します。

観音沢コースの終点、旧御射山神社に到着です。
ここはまわりを囲まれた窪地状になったところ、鎌倉時代には一種のスタジアムとして使われていたのだそうで、その証拠に観客のいた桟敷の痕跡や、地面にはカワラケがいまでも散乱しています。先ほどまで歩いた観音沢を辿り、参拝にやってきた人たち、馬とともに登ってきた競技の人たち。賑やかだったであろう道も、今ではひっそりと忘れられていました。
日が傾いて、初めて訪れた上野ガイドおすすめの宿ジャベル。昔の山の歌の中に出てくる山小屋がそのまま目の前に現れたかのような、落ち着いた佇まいがなんだか懐かしい気持ちにさせられます。しかも(幸運にも)我々だけの貸切!ご主人とお話ししたりしながら静かな夜は更けてゆきます。
翌日はまずは蝶々深山に向かいました。ミズナラの下をしばらく登ればすぐにのびやかな草原!見上げる空の面積の広さに、やはり高原の最大の魅力があると思います。ここは人の手によって草原が維持されてきたのですが、草原の中にぽつんと一本だけ立つ木を見つけるたびに、「その木」を残した「その理由」をあれこれ想像してしまいます。そんな想像を巡らすことができるのも足元に神経を尖らせないで歩ける高原の魅力の一つかもしれません。
そして、貸切の頂上へ。近くの八ケ岳から遠くは白馬まで、360度ぐるっと遠望ができて素晴らしい。さらに「ジャベルの丘」に移動。この丘までの小径がなんともいえずいい感じ。ここは完全に貸切です。振り返れば先ほどまでの静かな山頂は、団体さんであふれていました。

そのまま直進してジャベルへ向かって降りるのですが、この丘からの道は個人的な思い出の道〜2年ほど前に家族でここにやってきたときに、予定コースから外れて歩いてみた「小さな冒険」コース〜だったので、その記憶を懐かしみながら楽しむことができたのも良かったです。記憶に残る山、それをガイドとして提供できるようになりたいですね。
そのあと、昨夜の話題だった尾崎喜八の「忘れられた文学碑」を訪ねたあと、これも今ではほぼ忘れられた登山コースを辿って屏風岩の下、沢の分岐点まで降りていきました。このコースは途中の標識看板は新しく、道もほぼ明瞭なのに、分岐点到達直前になると道があやふやになるというのが不思議だった。(登りに使うと最初が分かりにくいです)
それからは昨日の記憶を辿るようにおなじ道を下山していきましたが、光の加減、歩く方向で随分森の印象は変わります。じっくりミクロの視点で色々なものを見せたいときには、登りコースとして設定すべきだなと再認識しました。そうそう、御柱の森をしばらく降りた辺り、道の山側にフェンスがある区間では、路上に黒曜石が落ちていて、これもここならではのお楽しみだと思います。
最後のおまけはクリンソウ。行きとは別の場所にあの朱色を見つけて寄り道した所、昔の水場だったような沢地にたくさん咲き誇っていました。やっぱり立ち止まったり、寄り道したりする道歩きは楽しいなあ。
このコースは、カエデ(なんと合計16種類)を始め落葉樹が多いので、秋などもきっと非常に魅力的だろうし、歴史と自然の魅力に加えて風景に変化が多いこと、たどり着いた宿も味がある、などなど歩く旅の魅力がつまった宝箱のようなコースだと思います。このようなコースを自分でも発掘、創造したいなあと思いました。そしてそのためには、まずはガイドブックではなく自分の足で確かめることが大事だということを今回の研修で学んだような気がします。
そして今回改めて自然の知識を磨く大切さを感じました。歩く道で出会う新しい植物に対して上野ガイドの解説が入る入る。後ろを歩くなかで、「そのほかの植物」はないかなと探しながら歩いていましたが、ほぼ無かったのに驚きました。自分も半分ほどは名前が分かったものの特に木の方面はまだまだ。まずはカエデの識別ができるようになりたいな、と思いました。
自然ガイド 野村でした。